第7回 自社製品をオープンソース化した事例

一言にオープンソースと言ってもオープンソースをビジネスに結び付ける形は複数存在します。

パターン1.寄付

オープンソースのプロジェクトのほとんどを一個人開発者が担っているところがよく採用するケース。

プロジェクトのスタートアップ時期に、少額でも寄付を募ってモチベーションを維持し、製品完成度とともに利用度・知名度が向上した時点でプロジェクト自体を売ったり商用展開するという戦略もある。

第5回で紹介した企業向けパスワード管理システム「teampass」もこのモデルです。というか寄付はそもそもビジネスじゃないか。

パターン2.システムインテグレーション

既存OSSの組み合わせ・カスタマイズ・構築するビジネス。

今年の日経ITの記事によると「IDC Japanが発表した調査結果から、オープンソースソフトウエア(OSS)を使ったSIベンダーが売り上げを伸ばしている傾向が浮き彫りになった。」らしいし、OSSをビジネスにしている事業者では恐らく一番数が多いと思います。

パターン3.既存OSSのカスタマイズ

既存OSSをカスタマイズして自社のサービスとして展開し、複数の利用者からライセンス料をもらうケース。

一顧客から開発費をもらうのではなく複数の顧客からライセンス料を得ることで個別の受託開発よりも料金を下げて提供できる薄利多売のビジネス。

作ったはいいけど市場のニーズがなければ商売にならないし、いい物作るぞーっ!と、時間かけすぎたり工数かけすぎると、開発コストが膨らんで回収に時間かかったり、そもそも製品がリリース前に時代遅れになってしまって失敗するというリスクがある。

そこにOSSを利用することで開発コストを圧縮できるメリットが乗っかる。

パターン4.自社でOSSを売る

自社で作成したシステムをオープンソース版と商用版のデュアルライセンスにする。

オープンソース版は知名度向上やフィードバックを広くもらうための位置づけで、商用版でライセンス料をもらう。

これらの4つ中では一番事業者の数は少ないかと思われる。
「自社でお金かけてつくったソフトを無料で使えるようにしちゃったら誰もお金払わなくなっちゃうんじゃないか」とか、「さらにソースまで公開したら真似されて競合がでてきちゃうかもしれないじゃないか」というリスク視点から、このモデルの採用決断が難しいのではないか思います。

今回は、この中でもパターン4を行っている会社、自社で作成したグループウェア「アイポ」をオープンソースにした株式会社エイムラックの取締役の金子治雄さんに、オープンソース化の経緯やその後の反響、今後の展開について直接話を伺う機会があったので、それをネタにしたいと思います。

会社設立当初から、自社製品をつくるというテーマをもっていたというエイムラックさんですが、グループウェアという製品をつくるに至ったきっかけは

「創業当時は営業担当や開発担当を初め、各部署担当が別々の場所で仕事をしていることが多かったため、情報共有のツールとして自社でグループウェアがほしいよね。」

という社内ニーズからとのこと。

そこで、「じゃあグループウェアをつくって販売しよう」ということになり、開発に着手。

実は発売当時はオープンソースではなく、普通のダウンロード販売モデルだったそうです。

発売して間もなく、
「宣伝コストをかけるとどうしても製品価格に反映しなければならない、宣伝コストをかけずにもっと多くのお客さんに知って試してもらうにはどうすればよいか」という課題に直面。

そこで、当時「フリーミアム」のビジネスモデルに注目し、”無料でダウンロードできて、トライアルライセンスを発行して一定期間なら
気軽に試してもらえる”という仕組みを取り入れた(この時点ではソースは公開していない)ところ、反響があり手ごたえを感じたそうです。
そしてさらに、「オープンソース化」して「無料でソースが手に入る」「期限なく無料で利用できる」ようにしたものを公開したところ、想定以上の知名度向上効果が大きかったそうです。

厳密な数値データはとっていないが体感的にわかるレベルで導入数が増大したということでした。

その他いろいろ興味深い話を伺ったのですが、私のつぼだった話は、

・「ソースを公開しているから安心」ということについて

オープンソースを利用してビジネスをしている会社の中には、「ソースを公開しているから安心」というのを売り文句にしている会社は多いが、自分たちのお客さんからのフィードバックとして、ソースを公開しているから安心なので導入したという反響はあまり聞かない。

「フリーミアムビジネス」という特色のほうが圧倒的にプロモーションとしてのウェイトは大きい。

・「オープンソースを公開することで、既存顧客もフリーに流れてしまうリスクは?」という問いについて

当時はもともとシェアを占めていたわけではないのでデメリットは考えてなかったが、実際にオープンソース化して、メリットのほうが圧倒的に大きかったとのこと。

・オープンソースにただ乗りして儲けようとする人「フリーライド」の可能性。

「OpenPNE」や「EC-CUBE」なんかだとサードパーティーベンダーがカスタマイズでビジネスをするケースが多いと思うが、aipoはグループウェアというジャンルの性質上、そういう事例はほとんど聞かない。

aipoを別のサービスの付加価値として無料で構築してあげたという事例はあるらしいが、デメリットとして感じたことはなく、むしろ無料でaipoを宣伝してくれているという感覚。

自分たちでサーバー用意したりインストールしたり、サポートしたりする必要がないという点で、有償でもSaaS形式で利用したいという層大きなマーケットになっている。

とのこと。

オープンソース化して大成功じゃないっすか。
ただ、エイムラックさんがマーケティングとして拘っているのは、「オープンソース」ではなく「フリーミアム」という視点。

今はどんな取り組みをしているかというと、aipoのプロモーション用の実験場としてfacebookアプリを作成。

簡単な質問3問に回答すると、自分の友達からビジネス上の右腕はこの人とか、診断の結果、あなたは「ベンチャー魂企業家脳」とかでるものを作成したら、一か月で30万いいねを獲得し、当初の想定以上の反響が出てしまいaipoの宣伝がつぶやけなくなっちゃったとのこと。

私のfacebook友達の中だけでも13人が「いいね!」しているし、タイムライン上でも多くの友人がやっているのを見た。

「大人の仕事診断脳」というfacebookアプリも実はこのエイムラックさんのもので、「オープンソース」の次の「フリーミアム」の実験として作成されたもの。

今回お話しを伺った中で持った感想として、「オープンソース」や「facebookアプリ」っていうのは手段でありただのツールであるということ。

この会社のすごいところは

・新たなプロモーション手段をキャッチするアンテナ。
・実験を無駄な稼働ととらえず、チャレンジし続けられる組織風土。
・それを素早く実現できる開発力。

というベンチャーの鑑のようなところで、起業家としては後輩である私も、がんばるぞ!と大いに刺激を受け、やる気をもらったのでした。

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